はじまりのみち

浜松市出身の木下恵介の実話をもとに、母親や人間愛について描かれた
静かで心あたたまる感動の映画でした。

病気療養中の母親を疎開させるため、恵介と兄とで母親を乗せた
リヤカーを押して、雇った便利屋に荷物を乗せたリヤカーを押しながら
山越えをする道中、出会った宿屋の人たちとの交流や、
映画監督を辞め岐路に立っている恵介の複雑な心情を回想しつつ
静かにストーリーは流れていきます。

恵介役の加瀬亮の誠実で静かな演技が、恵介の人となりを上手に演じていて
とても好感が持てて素晴らしかった。

兄役のユースケサンタマリアも飄々として自然体でよかったし、
便利屋役の濱田岳の、ユーモアーあふれる演技が、静かで実直な人たち
の演技の中で、いい刺激のスパイス役となっていておもしろかった。

母親役の田中裕子は、いうまでもなくベテランの名演技だった。
疎開先に行く途中、雨に打たれ汚れた母親の顔を恵介がやさしく
拭いてあげ、髪をとかしてあげるのだが、その時の無言の母親役の
田中裕子の表情とそのシーンは印象的だった。

今回病気で、台詞もあまりなかったものの、表情としぐさで感情を
表現していたし、ラストの手紙もシーンも迫真の演技だった。

リヤカーでの疎開での経験が、恵介にとっては再び映画監督として生きる
始まりの道だったのかもしれません。

この映画に出てくる恵介の家族は、みんな実直で愛情あふれる人たちで
そういう家族の中で育った恵介が、その後の映画監督としての彼の作品に
大きく影響しているのだろうと思った。

ラストに木下恵介の作品がたくさん紹介されるのだけれど、「二十四の瞳」は
いうまでもなく、小学校の時、講堂で初めて見た「喜びも悲しみも行くとし月」
は、いまでも記憶の中に鮮やかに残っている。